会社を設立するときや設立してからの数年は、役員報酬の決め方がわからないことも多いでしょう。

役員報酬の決め方のルールを知らなければ、創業直後に大きなリスクを招くことがあります。そのようなリスクを回避できるよう、ここでは役員報酬の決め方について解説します。

法人と社長個人どちらに現金を残したいか

これは小さい会社の役員報酬の決め方で、特に重要な点です。

法人にお金を残したいなら役員報酬はできるだけ低くします。逆に社長個人にお金を残したいなら、役員報酬を高くします。

ここまでは簡単で、少し難しくなるのが「トータルで残るお金を多くしたい」という場合です。

単純に考えれば、それぞれに半分ずつお金を割り振ればいいでしょう。どちらの累進課税率も低くなって節税ができます。

ただ、個人と法人では累進課税の区分が違います。「330万円超なら税率20%」などと区分するときの金額や税率が異なるわけです。それぞれの区分を見ながら、トータルの税額がもっとも低くなるポイントを見つけて、お金を割り振る必要があります。

役員報酬を決めるときの注意点

役員報酬の決め方で特に注意すべき点が1つあります。それは、役員報酬の全額が会社の経費になるとは限らないという点です。

従業員の給与は基本的に全額経費になります。同じ感覚で「役員報酬も全額経費になる」と思いがちですが、経費にならないケースも多いのです。

特に多いケースは、「年度の途中で給与の金額を変えた」という場合です。

役員報酬を会社の経費にするには、毎月同じ金額の給与を支払う必要があります。このような安定した給与は「定期同額給与」と呼ばれるものです。

年度のはじめから計画的に払っていた金額なら、「脱税のために年度末に慌てて増やした経費ではない」と税務署も判断します。

ボーナスについても同様です。突然増やした臨時賞与ではなく、「事前の税務署への届出どおりに支給したボーナス」なら経費になります。給与にしてもボーナスにしても、計画的な支払いであれば経費になるわけです。

役員報酬が会社の経費にならないことのリスク

役員報酬が経費にならないと、大きなリスクが発生します。社長個人と会社で、二重の所得税がかかるからです。

たとえば、会社の年間売上が500万円だったとします。そして、500万円をすべて社長の役員報酬にしました。

この役員報酬が会社の経費として認められたら、会社の利益はゼロになります。利益がないので法人所得税を納める必要はありません。

社長個人が、500万円に対する所得税と住民税の合計で約62万円を払うだけです。

しかし、この500万円が会社の経費にならなかったとしましょう。その場合「会社も500万円の利益を出した」という扱いになります。「会社も社長も500万円を稼いだ」という扱いです。

単純にいうと、「年収500万円なのに年収1,000万円と同じ課税」をされます。

法人が500万円の利益を出した場合、単純計算では地方法人税や事業税などもすべて合わせて約121万円となります。

個人の税金の約62万円で済むはずだったのに、約121万円の納税が追加で必要になったわけです。合計すれば約183万円となります。

役員報酬の設定を間違えることが、いかに危険かわかるでしょう。

会社を設立して1年目でこのことに気づく経営者は少なくありません。しかし、年度の途中での役員報酬の変更は原則不可です。減額なら事情によってはできます。

たとえば、会社の資金繰りが苦しいケースです。高い役員報酬が倒産のリスクを高めるというケースなら減額が認められます。一方、役員報酬の増額はほぼ認められません。会社の脱税に使いやすい手段だからです。

増額が認められるのは「報酬が増えるのが自然」という場面のみです。

たとえば、従業員が年度の途中で役員に昇格したときなどが該当します。

会社の設立から数年は、多くの会社で資金繰りが厳しくなるものです。その数年で本来支払う必要がない税金を多く払うことになったら、大きなダメージを受けるでしょう。

そのような危険を回避するためにも、役員報酬の設定は特に慎重にしてください。